日本経済の中枢を担うビジネス街・丸の内のシンボル「丸の内ビルディング」。グランドオープン以来の賑わい―特にレストラン・ショッピングゾーンの集客力は、予想を上回るものとなっている。その竣工を記念したシンポジウムは、三菱地所設計取締役社長・島田勝久氏の開会挨拶でスタート。続いて丸の内再開発の設計統括を務める同社常務取締役丸の内設計部長・岩井光男氏が登壇し、主催者講演を行った。
 丸の内開発の歴史的経緯を中世江戸期から振り返り、徳川家康入城の頃に始まった本格的な街づくり、現在の区画がほぼ定まった幕末期、さらに1890年に三菱社が払い下げを受け、丸の内開発の原点となった「三菱が原」の時代、日本初の近代的オフィスビルである三菱第1号館を先駆けに、馬場先通り沿いにヨーロッパの街並みを思わせる「一丁倫敦 ロンドン」が形成された時代へと、古地図や写真を含めて紹介した岩井氏は、「一丁倫敦には、日本を代表する企業が集まり、丸の内のステイタスを高めることになった」とビジネス街・丸の内の誕生を語った。
 1914年の東京駅完成を受け、行幸通り沿いに北へ伸び始めた丸の内のオフィス街に、1923年、旧・丸ビルが完成。当時の丸の内地区の就業人口の約2割を収容した旧・丸ビルを中心に、「一丁紐育 ニューヨーク 」が誕生する。
 竣工直後の関東大震災や第二次世界大戦でも被災を免れた旧・丸ビルは、東京駅や東京中央郵便局と並んで、首都を代表する景観になる。さらに高度経済成長期には『丸の内総合改造計画』がスタート。近代的ビジネスセンターとして再整備され、世界に名だたる丸の内ビジネス街が出現する。そして今回、21世紀の街づくりへの端緒として実現したのが新生丸ビルの竣工。岩井氏は、「丸の内は、歴史的な節目のたびに、象徴的な変遷を経てきましたが、1世紀を超える歴史の大半を丸の内とともに歩んできた当社は、今後もより皆様に愛される街づくりを目指していきます」と講演を締めくくった。




 続いて行われたノーマン・フォスター氏による『都市と密度』と題された基調講演.1は、「建築家は、いかにしてより多くの人々をより狭い土地に受け入れ、そして都市生活の質的向上を図るかという、未来に向けての新たな挑戦に直面している」と語り始められ、人類の都市への挑戦においては、巨大な建築物を、技術を信頼しながら、しかも人間的なスケールを忘れずにとらえていくことが重要であると示唆した。「人口密度が高くなると、高層ビルにはより高くという探求が見られるようになるが、その場合にもタワーをいかに豊かな人間性にあふれるものにするかが課題になる。新しい質の高い都市生活を実現するためには、都市と個人を結びつける接着剤となるインフラが不可欠であり、特にプライベートな空間と公的空間のインタラクションをいかに整備するか、公共空間によって新しい生活の息吹をいかに生み出していくかが重要だ」
 フォスター氏は同時に、先進国ではエネルギー消費の約半分を建物が占める一方、4分の1が輸送に当てられている現状を指摘し、未来の都市は、エコロジー危機問題への対応を迫られることになると語った。そしてエネルギー問題に配慮したビルのデザインを通して、建築家は環境問題に影響を与えることができ、それが都市生活の質を確保することにもつながることが、自身の作品を通して具体的に説明された。
 基調講演.2はマイケル・ホプキンス氏による『都市の再利用と再解釈』。ロンドンの歴史的考察と丸の内を含む東京についての具体的考察をふまえ、またホプキンス氏自身の作品を例示しながら、都市のクオリティ・コアを創世するためには、その地域の特徴や個性を把握し、都市の変化に対応できる柔軟性を持ち、開放的な建物を作ることが重要であり、それが21世紀に向かう多様性と人間味のある都市環境の創造につながることが語られた。「東京という高密度な発展を常時続けてきた都市のなかでも、丸の内がオフィス街であることは明らかに有利だ。そこに、レジャー、ショッピング、レストランなどの要素が自然に付加され、丸の内ライフが多様化されることによって、より大きな魅力を持つようになっている。丸の内は東京、そして日本のゲートウェイとしての役割を果たしているが、観光客も含めすべての人を歓迎することが重要。そのためには、例えば東京駅前を再開発し、人のための公共空間を作り、またそれらのオープンエア空間と、地下や鉄道のガード下等の空間をつなげ、新たなネットワークを作っていくことが重要だろう」
 歴史的、環境的なコンテキストを十分に読み込んだ自身の作品を紹介しながら、人間的な温かみにあふれる技術を、それらの作品中に高密度で使用することによって、都市の個性をとらえ、再解釈し、再利用することが可能になると語られた内容は、今後の都市計画等においても重要な示唆を含むものだったといえるだろう。




 シンポジウムの最後に行われたパネルディスカッションは、建築評論家の馬場璋造氏をモデュレーターに、パネリストとして新居千秋氏、大江 匡氏、團紀彦氏、さらにマイケル・ホプキンス氏を加えて行われた。テーマは『都市のコンプレキシティ ―純市から雑市へ』。本来人間のアクティ ビティの集積として自然発生する都市を、 業務、商業、工業、住居等のように平面的に機能分けし、明快な都市構成の理想を追い求めた近代の都市計画を“純市”ととらえ、そこから派生した様々な問題への反省を込めつつ、都市の本質とはコンプレキシティ=複雑性にこそあり、“純市”から複雑性を持つ“雑市”への転換を図ることが必要であるという趣旨で、ディスカッションが展開された。
 「オフィス、商業施設、住宅を適度に配分する現在の再開発では、エリアごとの差異が表れず、需要は頭打ちになるだろう。今後は医療・福祉等に特化した開発や、建築、道路、商業等をトータルにプロデュース、道路、商業等をトータルにプロデュースし、都市やエリアのバリューを向上させる新しいプログラムが必要になる」(大江氏)「東京駅には、子供でも絵にかける明快なストラクチャがあるのに対し、池袋駅にはどこまでが駅なのかさえわかりにくい複雑さがある。20世紀型の再開発には、雑多なモノを羅列することが民主主義だという誤解から、質の低い“雑”に陥ったものもあるが、その質を高めていくことが我々の課題であり、古典的な骨格を持つ丸の内では、その品格を保ちながら、いかに新しく生まれ変わらせることがテーマになると思う」(團氏)
「東京では今、37ヵ所もの再開発計画があり、今後、500万m2ものオフィスフロアが供給されるという。そうした急激な変化のなかでは、自分のキャラクターをよく知り、見失わないことがポイントだ。同じような超高層ビルが並ぶ画一的
世界を生み出さないためには、都市のキャラクターを作り出すスクリプトが重要。また都市の内部に、街の個性に合わせて変容し、従来の概念にはないプログラムを持つ様々な施設を作れば、より魅力的な街になるだろう」(新居氏)
 レベルの高い複雑性を持つ“雑市”を生み出すことが、都市の再生に結びつくとする内容の濃い討論を最後に、4時間に及ぶ熱気あふれるシンポジウムは閉幕した

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