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連載|ものづくりの視点

都心の散歩道

矢崎 勝彦

地下鉄桜田門駅からJR東京駅へ20分ほど散歩をしてみよう。地上に出ると右側に法務省旧本館赤レンガの建物が見える。それを背に皇居外苑へ向かうと桜田門がある。今から150年ほど前、時の大老井伊直弼が暗殺された有名な場所である。いずれも国の重要文化財である。桜田門を通って皇居に入ってみる。ここはランニングコースの一部になっており、ランナーが門をくぐる姿はマラソン競技の最終ゲートを通る姿のようにも見える。そこから皇居外苑に入ると、旧江戸城の石垣やお濠の歴史的な景観と大手町、丸の内、有楽町地区のビジネスセンターの現代的な景観が対比的に目の前に広がる。

ここから二重橋を通って和田倉噴水公園に至るまで広場が続いている。いわゆる皇居前広場と呼ばれているエリアである。ここは諸大名の屋敷であったが、現在は環境省が管轄する国民公園として一般に公開されている。内堀通りを渡ると緑陰の芝生広場がある。この一帯では、かつては昼時となると周辺のビルからサラリーマンが集まり、食事をしたりバレーボールをしたりする人で賑わっていた。いつの間にかサラリーマンもビジネスマンと呼ばれるようになり、今ではそのような姿は見られない。観光客や市民ランナー、サイクリングやベンチで静かに携帯音楽プレーヤーを楽しむ人も多い。最近は外国人も非常に多くみられ、国際色豊かである。

皇居外苑には美しいお濠がある。そこには長い間、江戸の飲料水源の一つである玉川上水からのきれいな水の流入があった。しかし明治以降の都市構造の変革により玉川上水が近代水道に変わり、さらに昭和40年に淀橋浄水場の廃止に伴い余剰水の流入がなくなると、お濠は閉鎖水域になった。その後の水質悪化に対して改善策はとられていたが、総合的な対策として、環境省の浄化装置の強化や東京都の下水道ルートの変更と周辺民間地権者の連携による本格的な水質改善計画が平成22年に策定された。その民間プロジェクト第1号が「(仮称)大手町1-1計画」という、りそなマルハビルと三菱東京UFJ銀行大手町ビルの建て替え計画である。これは都市再生特別措置法に基づき都市計画特例制度を活用し容積緩和を受けるもので、地域貢献としてお濠の水質改善のため、貯留槽と浄化装置を設け、渇水時の水補給と浄化を行う。

その取水、放流口設置のため、お濠の石垣を一部解体し、また元通りに積み直す工事が進められた。皇居には多くの石垣があるが、それは諸藩大名の負担によって築造されたものである。膨大な数の石を一つずつ丁寧に積んでいった。異なった大きさの石と石との噛み合わせによって強度が確保されていた。当時から高い技術があったとは言え、恐らく現場では試行錯誤の繰り返しであっただろう。現在では基準に基づいた計算で構造が決定され、図面に従い工事が進められていく。当時とは比較にならないほどの大規模で複雑な建造物を短期間でつくることが可能になったのは、先人の経験が積み重ねられたおかげである。しかし現在の技術を当たり前のように使っている我々は、時には先人の知恵を知り、それを学ぶことも意味があるのではないかと思った。

足を進めよう。そのお濠を後に、関東大震災帝都復興事業の4列いちょう並木を復元した行幸通りを経て丸の内のオフィス街へと入っていく。パースペクティブな景観の先にレンガ造りの東京駅舎が100年前の建設当時の姿を見せてくれる。近くには大正時代建造の日本工業倶楽部会館や昭和初期建造の明治生命館、明治時代の三菱一号館復元など歴史的建造物が多くある。丸の内仲通りにはお洒落なカフェがいくつもある。疲れたら、そこで一休みしてもいいかも知れない。ちょっとした歴史を感じ、学べる散歩道である。

都心の散歩道