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連載|ものづくりの視点

リニューアルからリノベーションへ

河向 昭

広辞苑(第7版)によると、リニューアルは「もとのものに手を入れて新しくすること」とあり、リノベーションは「修復すること。改善すること。特に、建物・住戸を大がかりに改修すること」とある。設計現場における感覚では、リニューアルとは、既存の建物のデザインや機能を現在の社会的要求水準まで引き上げる改修を想定するが、実際にはいろいろな制約のために部分的な改修に収束している事例が多いと思われる。一方、リノベーション設計とは、用途を含めて改善し、新しい建物として生まれ変わるほどの改修を目指している。

長らくデベロッパーのインハウス設計事務所であった当社は、この分野の歴史も長く、専門部署として1995年6月にはリニューアル建築部が設置された。しかし、社会の要請は単純に経年劣化した部材を新しく交換するリニューアルから、新たな価値の創出を伴うリノベーションへと移行している。これに応えるため、2014年4月、リノベーション設計部へと名称を変更し、積極的にプロジェクトを手がけてきている。

リノベーションの事例として、当社が広島で進めてきた「香月プロジェクト」というコンバージョンを紹介したい。1989年(平成元年)に建てられたオフィスビルを用途変更した上で全面的に改修し、産婦人科を中心に小児科、内科、皮膚科の医療施設と保育園が一体となって入居する総合医療ビルに生まれ変わる計画だ。既存の都市インフラストックを有効活用することで、環境にやさしく、事業スケジュールを最も短縮することができ、かつ経済的合理性を確保できるコンバージョンを選択した。外装の一部を解体撤去し建物の軽量化を図るとともに、耐震補強を行うことで建物の構造的な健全性を確保した。その上で子どもの誕生と成長という祝祭の場にふさわしい多様で華やかな表情を持った新たな外装デザインを施した。内部では多数の利用者を想定したテナントオフィスから診療、治療、入院といった個々のホスピタリティを重視したプランニングや内装デザインを施した上で、建物の軽量化と耐震補強によって実現可能となった屋上庭園を新たに設けた。ただ新しいものに造り替えるだけではなく利用者の快適性と建物の価値を大きく向上させ新たな建築として生まれ変わることとなった。

リノベーションの事例としてもう一つ、現在設計中の「大手町ビル」リノベーション計画についても触れておきたい。東京の大手町で都心でも珍しい、長手方向が200mにも及ぶ敷地の中に建つ高さ31mのオフィスビルである。1958年に建てられたこの建物は、1998年以来数回にわたって耐震補強工事が繰り返されてきた。築60年を経て100年建築に挑む理念を掲げることとなり、長く奥行きの浅い敷地形状の特殊性から、建て替えではなく大規模なリノベーションに踏み切ることとなった。初期の耐震補強工事から今日に至るまでの長期にわたる改修計画の中で、ビルを取り巻く法律、規制も変わってきた。時間的な経過と現行法規の規制の中で選択できるぎりぎりの改修を模索することとなる。またこの計画はテナントを抱え、ビルを使用しながら工事を進めるため、工事環境や条件、工期、周辺への影響に至るまで細かな配慮と調整の上に成り立たせる必要がある。つまりリノベーションは設計やデザインを行うのと同時に多くの制約の中で享受できる付加価値の取捨選択、長期にわたる計画性、施工、ビルマネジメントなど全てを絶妙なバランスの上でマネジメントすることに他ならない。

これらのようにリノベーションでは新築と同様に創造性と長期にわたる全体構想を意識し、取り組むことが求められる。建築資源を真にストックとして生かす社会を実現するためには、それを支援する規制改革や法整備が必要と思われる。

リニューアルからリノベーションへ